大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和46年(ネ)745号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

共栄火災海上保険相互会社

被控訴人(附帯控訴人)

日本グラウト工業株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

附帯控訴により原判決主文一、二項を次のとおり変更する。

控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し金四四六万二〇〇〇円並びに

内金三〇〇万円に対する昭和四四年一一月六日より、内金一四六万二〇〇〇円に対する昭和四七年三月一一日より各完済に至る迄年六分の割合による金員を支払え。

控訴および附帯控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。)は、控訴につき、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。)は、控訴につき、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として請求の趣旨を拡張して主文第二項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上・法律上の主張および証拠関係は、

一  被控訴人において、

(一)  請求原因事実五の末項(原判決三枚目裏八行目中「被告は」以下)を、「被控訴人の蒙つた損害四四六万二〇〇〇円のうち自賠法に基づき支払われる三〇〇万円を超過する部分一四六万二〇〇〇円については同法による運行供用者責任によると同時に民七一五条、七〇九条の使用者責任によりその支払を求める。

なお、右自賠法に基づく三〇〇万円についても同法の損害賠償責任保険契約に基づく請求として認められないときは、予備的に本件任意保険契約に基づきその支払を請求する。

よつて当審において附帯控訴により請求を拡張して控訴人に対し右金四四六万二〇〇〇円並びに内金三〇〇万円につき本件訴状送達の翌日である昭和四四年一一月六日以降、内金一四六万二〇〇〇円につき本件附帯控訴による請求の拡張の申立日の翌日である昭和四七年三月一一日以降、各支払ずみに至るまで商法所定の年六分の割合による金員の支払を求める。」と改め、

(二)  控訴人の後記当審における主張は争う。

自賠法二条に規定してある「運行」の定義を考えるに当つては同法の立法趣旨に立脚して各自動車の種類、用途、目的に応じた機能的な点を考慮すべく、自動車には(イ)、自動車の走行によるそれ自体の危険、(ロ)、貨物自動車では荷台に荷物を積載すること、積載荷を固定すること、積載荷を下ろすこと並びにこれらに伴う危険、(ハ)、一般道路上を走行し道路上に駐車し又停車すること並びにこれによる危険、の三つが相互に関連しているのであつて、これらの相互関連のない「荷下ろし事故」については運行概念の外にあるが、本件の如く走行直後道路上に駐直して荷下ろし中の事故は社会通念からみても「運行によつて」生じた事故というべく、荷下ろしにつき作業員の過失が伴つていたとしても右結論が左右されるものではない。

また、本件任意保険約款二章二条一号にいう「自動車の所有、使用、管理」とは、前記「運行」より広い概念であつて前記主張の各自動車の種類、用途、目的に応じた機能的な点を考慮して判断すべく、本件荷下ろし中の事故は右の「自動車の所有、使用、管理」による事故であり、倉庫の棚からの荷下ろし事故と同視すべきものではない。

と述べ、

二  控訴人において、

(一)  本件荷下ろし作業中の事故は本件貨物自動車の「運行によつて」生じた事故ではない。

自賠法三条は「運行によつて」生じた事故すなわち運行と相当因果関係のある人身事故について運行供用者の賠償責任を定めているのであつて、右の「運行によつて」という規定を「運行に際して」と解釈することは明文に反し許されないところである。

もともと運行の概念は本質的に自動車の場所的移動を前提としているものであり自賠法も自動車が走ることから生ずる特殊な危険性に焦点を合せて立法されたものであるから、「運行」の定義規定である同法二条二項にいう「当該装置」とは走行装置を指称すると解すべく、自動車の発進から停車までが運行であつて、駐停車中の事故はその前段階の運行との因果関係の存否によつて自賠法適用の有無を決すべきである。

本件事故は本件貨物自動車の停車後間もない時点で生じた事故ではあるが、その態様は原審以来主張してきたとおり被控訴会社の荷下ろし作業員が本件貨物自動車からの荷下ろし作業に際し通行人等に対する安全の確認、事故防止の手配を怠たり漫然と荷台から積荷をバール(人力)で落下させた作業上の過失によつて生じたものであつて、停車前の本件貨物自動車の運行との間には相当因果関係は存しないから本件事故には自賠法の適用はないものである。

(二)  また本件事故は本件保険約款所定の「自動車の所有、使用、管理」に起因して生じたものではない。

一般に所有、使用、管理とは目的物に対する静的、動的な支配関係を表現する用語であるが、自動車と積荷の関係は自動車に積載されている限りその積荷も自動車に対する支配関係に包摂され、その状態の積荷に起因する事故も自動車の所有、使用、管理に起因する事故と観念することができるけれども、荷下ろしは右の如き積荷に対する自動車の支配関係を離脱させる行為であり積荷に対して自動車とは独立した支配力を行使するものであるから、荷下ろし作業は自動車の所有、使用、管理とは別個の積荷の管理行為というべきである。

したがつて荷下ろし作業上の過失によつて生じた本件事故は自賠法の適用がないのは勿論、右保険約款にいう保険事故にも当らないものである。

と述べ、

たほかは、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求(当審において附帯控訴により拡張された請求を含む。)は正当であると認定判断するものであつてその理由は次に附加、訂正するほか、原判決理由欄に説示するところと同じであるから、これを引用する。

一  原判決理由二の前段(原判決六枚目表九行目中「右にいう」から七枚目表八行目まで)を次のとおり改める。

右の「運行によつて」とは「運行と被害との間に相当因果関係のある場合には」と解すべく、これを「運行に際して」と同意義に解すべしとする見解にはたやすく賛同し難い。

ところで貨物自動車はその車種からみて荷物の積込み、荷下ろしを予定しているものであり、その用途からみれば荷物の積込み、走行に続いて荷下ろしのための一時停車という経過を辿るのが一般であるから、そのような経過を辿つた荷下ろし中の事故は貨物自動車の「運行」と密接な関連があり両者の間には前叙の相当因果関係があるというべく、その間に荷下ろし作業員の過失が介在したとしても右の因果関係が切断されるとは解し難い。

けだし右にいう「運行」とは定義規定たる自賠法二条二項により自動車を当該装置(走行装置のみならず自動車の車種、用途に応じて構造上設備されている各装置、たとえばダンプカーのダンプ等はもとより普通貨物自動車の荷台、側板等固有の装置を指称すると解するのが自動車に関連する特殊の危険から被害者を保護せんとする自賠法の精神に合致するものと解せられ、これを走行装置を指すものとする控訴人の主張は狭きに過ぎ採用し難い。)の用法に従つて用いることをいうが、それは自動車をエンヂンにより移動する場合に限らず、停車中の扉の開閉、荷物の積下ろし等自動車の移動に密接に関連する場合も含むと解すべきだからである。

二  原判決理由四の末尾「三〇〇万円」に次の一項を加える。

およびこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四四年一一月六日以降完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金

三  原判決理由五の末尾「しかるに」(原判決九枚目表五行目中段)以下を次のとおり改める。

さすれば控訴人は被控訴人に対し右超過額たる金一四六万二〇〇〇円およびこれに対する本件請求の拡張申立の翌日であること当裁判所に顕著な昭和四七年三月一一日以降完済まで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払をなす義務がある。

よつて本件控訴は理由がないから棄却すべく、当審における附帯控訴による請求の拡張により原判決主文第一、二項を本判決主文第二項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤孝之 今富滋 藤野岩雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例